牡蠣マニアのぼやき「人生で初めての牡蠣」

牡蠣を初めて食べたのはいつ頃だったろうか。
思いを巡らしていてフッと思い出した。

小さい頃に母が作ってくれた牡蠣フライだった。
一度食べた牡蠣フライのおかげで、長いこと牡蠣から離れていたが、そんな私も今は牡蠣マニア。

人生とはよくわからないものである。

山奥の寒村で新鮮な魚介類が手に入らなかった


私が生まれたのは関西の山奥、いわゆる寒村だった。

海とは全く無縁の山の中でまだ流通も今のように発達してなかったから、新鮮な魚介はまず手に入らなかった。

大きいスーパーやデパートもなく、近所の「食料品店」に入る水産加工品を時たま食べるくらいの生活だった。

かろうじて手に入るナマ物といえば、イカの切り身。
当時は喜んで食べていたものだが、成長してから美味しいイカを食べて驚いた。

小さい時に食べたイカは見た目も食感もまるで消しゴム。

無知とは恐ろしいものだ。

そんな山奥の寒村で牡蠣を食べるとなれば、生牡蠣などではなくもちろん加工されたものしか手に入らない。

夏の暑い日に母が買ってきたのは牡蠣フライだった。
クーラーのない家で家族全員が夏バテをしていたのである。

牡蠣イコール滋養強壮というのは山奥の寒村でも知られていた。

母が思い切って作ってくれた牡蠣フライ


母は牡蠣フライを揚げ、皿に山盛りで持ってきた。

誰も何も言わなかったが、たぶん家族の誰もが食べたことのないようだった。

まず、何をつけて食べるのかがわからない。

当時、家でフライといえばとんかつソースかウスターソースの2択しかなかった。
とんかつソースはとんかつのほか、お好み焼きを食べるのに重宝したし、ウスターソースはカレーにかけて食べるのだ。

私はとんかつに似た見た目の牡蠣フライを見て、とんかつソースをセレクトしたのは自然な流れだった。

それまで、フライといえばとんかつか魚フライぐらいしか食べたことない私にとって、未知の牡蠣フライを口に入ることは少しためらわれた。

祖父か父がまず箸をつけるのが我が家のしきたりだったから、祖父が食べてなんともなかったのを確認して私も箸を伸ばすことにした。

祖父は明治生まれ、ほとんど口を開かない男だった。
牡蠣フライを黙々と食べている。

食卓には、三世代の家族6人で揃って食べるのが習慣だった。
そしてそこではテレビで野球のナイター中継が映っている。

いつも通りの食卓だ。

田舎だから食卓の話題もいつもと代わり映えしない。

「近所の誰々さんが就職した」
「誰々さんは都会から帰ってきた」
「誰々さんの子供が高校に受かった」などたわいもない話である。

小さい頃の私はそんな話があまり好きではなかったし、早くそんなところから抜け出し、もっと都会に行ってみたいと思っていた。

そんなことを思いながら、生まれてはじめて牡蠣フライを口にこわごわ入れてみた。

初めての牡蠣フライは不思議な感触だった。

外側の衣はパリッとしている。
中は柔らかくやや苦味を感じた。

これといって美味しい要素はなかったし、かじった断面を見ても黒や灰色が多かったので「美味しい!」とは感じなかった。

牡蠣フライを一つ食べて美味しさを確認できなかった私は、もう一つ食べようと箸を伸ばした。

もう一つ食べて美味しいと感じなければ、もう牡蠣フライはやめよう。
そう思って二つ目を食べてみた。

やはり一つ目と同じような感想で特段美味しいとは感じなかった。

一家全員が食あたりに


夜になり、そろそろ寝ようかと言うことになった。

テレビの野球ナイターは延長戦も終わりもうテレビも消してあった。
祖父と父はビールを飲んでほろ酔いだったし、私と妹は自分の部屋で宿題をしていた。

そんな日常的に過ごしている家族に異変が起こった。

皆トイレに行きたがるのだ。

6人家族だが家にはトイレがひとつしかない。
どうも家族全員が腹痛を感じていたようなのだ。

胃腸が敏感にできていた私がいちばんにトイレに入った。
あとの家族は待っていたようだ。

腹痛と冷や汗が止まらなかった。
そしてひと息ついてトイレから出ると妹が慌ててトイレに駆け込んだ。

それからその晩は全員が入れ替わり立ち代わりトイレに入ったのだった。

その後どうなったのかはわからない。
そこで記憶が途切れているのだ。

私の牡蠣デビューは苦いものとなった。
これは大人になるまでそこそこ長いトラウマになった。

このトラウマが解消されるのは、海沿いで美味しい生牡蠣を食べるまで続いた。 

まとめ


不思議なもので、一番初めに食べた牡蠣はこんな大変だったにも関わらず、今は牡蠣マニアとして生きている。

私のあの体験は、海から遠い山奥の寒村ならではのものだったのではないだろうか。
大人になるまでは怖くて食べられなかった牡蠣をマニアとして今は年じゅう食べている。

あの小さい頃の私に、「ちゃんとした牡蠣をちゃんとして食べれば美味しい」のだ、と教えてやりたい。 

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